「全機停空姿勢のまま待機。普通の光武だと思わないで」

あの、不気味な少女の時と同じものを、はじめは感じとっていた。

「火器制御の安全弁と熱感知センサーは全て解除。・・・それで、不意の攻撃ならオートで対処できる。もし、攻撃を仕掛けてくるなら、後方の2機から先に来るわ」

「・・・・なんでそんなことわかるんだ?」

桜田が疑問を投げかけると、はじめは淋しそうに苦笑した。

「第五十六部隊長の山本大尉とは、何度も演習でやりあったわ。やたらと私をライバル視してた」

「・・・・そんな・・・・おまえそれでも、攻撃すんのかよ・・・」

「・・・・・私にだって、わけがわからないわ。でも、とてつもなく恐ろしい気をまとっている気分がするのよ、あの機体からは」

「僕もそれを感じる」

神崎も頷いた。

「・・・・・・・来るぞ」

ユーリが指摘する方角のレーダーを見ると、無数ともいえる機影が映し出されていた。

第五十六小隊のまわりに、無数の陽炎が立ち昇ったかと思うと、30機ほどの帝国空軍の量産型飛行型光武が出現した。

「・・・・!!なんだ、どういうことだ・・・!?」

「どうやらなりふりかまっていられないようね・・・・桜田くん、こいつら、みんな敵みたいよ」

「あ、朝日奈さん!こ、これ・・・3年前の旧式の・・・・!インドシナ戦役時の・・・!し、識別コードは、全て、撃墜され、抹消になったものです」

倉田が、完全にお手上げ状態といった面持ちで通信した。

「わかってるわ。あの機体にはお世話になったもの・・・・」

はじめは息を大きく吸い込んだ。

「各員に告ぐ!幽霊だろうがなんだろうが、びびるんじゃないわよ!市街地到達距離10キロ以内に入る前に、全てぶち落とす!マイクロミサイルをAIにまかせ、近距離はつっこむ!私が囮になって前方をひきつけている間、後方ラインが前衛を必ず取り囲みに来るはず。そこを遠距離型で迎撃して。それで大分フォーメーションが乱れるはず。いいわね!機体のフォルムからすると、ユーリと友之君が遠距離ね。じゃ、頼んだわよ!」

「了解」ユーリは冷静に言った。

「じゃあ、桜田君と神埼君は左右から15度後方にずらしながらついて来て。いいわね」

「お、おう」

「りょ、了解」

「大丈夫、絶対、勝つんだから、ね。」

はじめはそう言うと、白蓮を飛行姿勢にさせ、敵陣に超高速でつっこんで行く。敵陣から一斉にミサイルが発射されたが、全て発射と同時に宇宙組の機体のセンサーに感知され、同時にマイクロミサイルで迎撃される。一気に爆炎が空一直線に広がった。

敵陣に切り込むと、白蓮は飛行姿勢を解除し、光刀を引き抜くと、右前方の一機を真っ二つにし、左のアームで左上の敵機を殴り上げ、前方に向かって水平ミサイルを発射させた。白蓮が一機で5機を一瞬のうちに撃墜させる。

(すげぇ・・・・)桜田は茫然としそうになったが、白蓮の死角に該当する機体を確実に潰していった。いや、はじめの行動により、桜田が落としやすい所に敵がいるといった塩梅だろうか。あぶれた敵はユーリと友之の確実な射撃によって落とされていく。

「装甲もスピードも、確実に強化されている・・・・やっぱり、こいつら、帝国軍の量産型であってそうではない・・!」

それにまったく「人の気」を感じない。

「はじめちゃん、なんとか敵を一点に集中させよう」

神崎がやけに自信たっぷりに言った。

「?」

「気に食わないけど、桜田くんも協力してくれ」

「なんだよ」

「アレをやるんだよ」

「アレって・・・・ふーんそういうことか」

「はじめちゃん、なんだか僕達、今日はめちゃくちゃ調子いいよ。霊力値がみなぎってる」

そう言っている間にも、見なれた量産型の機体が、次々とおそいかかって来る。

「そろそろいいかな」

「しょーがねえな」

一瞬、神崎機と桜田機に薄いオーラがかかったように見えた。

「神崎風塵流、火龍の疾風!」

神崎機の長い槍型の光刀が回転し、周りに爆炎の渦が巻き起こり、周囲四方の機体が次々と連続爆破を起こした。

「す、すごい・・・・・」今度ははじめが驚嘆する番だった。

「おい、はじめ!俺が正面のザコを追い払っている間に突っ切ってけ!」

「なんか知らないけど、まかせたわ」

「敵が直線に並べば、こっちのもんだ!」

「霊力増幅値最大、全て開放。ターゲットロック」

桜田の機体のAI、コードネーム”ハーケン”が無数のコントロールパネルで計測値を出し、確認する。

「行くぞ!破邪剣征、桜花青狼斬!」

この瞬間、桜田は全身の力が吸われるような疲れをともなうが、桜田の機体「青燐」は、すさまじい霊力エネルギーによって包まれ、青い炎をまとっているように見える。その青い炎が、機体ごと一直線に彗星のように高速で敵陣に突進し、前方直線上の敵機を一気に粉砕するのだ。

(わかったわ、この人達の能力・・・・これが・・・・”特別な能力”を持たされた人達・・・・・・そして、わたしの・・・・・・今、やるべきことが・・・・・・・)

桜田の開いた突破口から、一気に敵の隊長機へ突進しながら、はじめは覚悟を決めていた。これから始まる、長い戦いに。

機体の左肩に「帝国空軍第五十六飛行光武隊」とあり、その少し下にカジキのエンブレムが描かれた機体。それが、隊長の山本勝大尉の愛機だ。

山本機は、いままでダラリと両腕を下げたまま、不気味な沈黙を続けていたが、白蓮の白い機体が接近すると、異常なオーラを発し、高速で突進した。

「!」

それを咄嗟に光刀で受け止めながら、はじめは吐き気がしそうな邪悪な雰囲気を感じた。その時、雑音まじりの通信が入って来た。

「・・・・・・・・さし・・・・り・・・だな・・・・・・ひさしぶりだな、朝日奈少尉・・・・」

「その声・・・・・やっぱり・・・山本大尉・・・・・・」

「おっと、今は中尉か。インドシナ半島はどうだったか?え?トップチームのパイロットさんよ・・・・・・俺は、いつも年下のお前に追い越された・・・・・・・お前が憎かったんだよ・・・!」

「・・・・聞いたわよ、あなたは降魔を撃退するために出撃して戦死したって・・・・なぜ、こんなことをするの!?自分達の国を必死に守ろうとしたんじゃなかったの?」

「国?アホらしい、かなわねえと知っていながら俺達を出撃させて見殺しにしたチキン野郎の集まりを、どうして守ってやんなきゃならねえんだ!」

「じゃあ、やっぱり・・・・・・」

「そうさ!俺と、俺の部下達は一度死んだ!だが、その時わかったのさ・・・・ここにいる人間共は、みんな自分のことしか考えてねえ腐れ野郎だってことが・・・・・そして、手に入れた・・・・・この力ヲ!」

その時、山本機の両翼がどろどろと変形し、生物組織のようなものが関節部から蔦のようにからまっていった。そして、暗黒の、蝙蝠のような翼になった。機体のカメラアイは不気味な眼球になり、鈍く光っている。

「な、なんなのこれ!」

目の前で起こる異様な光景に驚愕する暇もなく、すさまじい力で機体を山本機にわしづかみにされた衝撃が、コクピットに走った。

「う!」

「生意気なんだよ、いつもいつも、俺は努力していたのに・・・・・貴様はいつだって俺の上を行きやがる、ガキのくせに!!」

バシュ!

その時、一筋の光が後方から走り、山本機の右腕を貫いた。

そのおかげで、白蓮は開放された。光の来た方向には、右肩に霊子エネルギーを収束するロングレンジライフルを装備したユーリの黒い機体・・・「黒曜」がいた。

「残りは貴様一機だけだ」

ユーリは冷たく言い放った。山本機の流す通信は、宇宙組隊員全て、聞こえていたのだ。

「外野は黙っていろ!」

山本のオーラに反応するように、全身からミサイルが発射されたが、それを全て正確に、友之の緑の機体、「緑莱」の放ったホーミングミサイルが叩き落とした。

「かわいそうな人・・・・だけど、僕達は君を放っておくわけにはいかないんだ」

友之が顔を覆うようにして眼鏡をかけなおした。

信じて。わたしの、力・・・・・あなたの、力・・・・・・・

はじめの意識に、あの時の声が入って来た。「AYA」の声だ。

「AYA・・・・あなたなの?」

あなた、の、力でこの人を眠らせるのよ・・・・あなたの力は、すなわちわたしの力・・・・・憎しみの力に、負けて、は、だめ・・・・・

優しい声だった。はじめは悟ったように、目をゆっくりと閉じ、そして両腕のマニュピレータに力をこめた。

「山本大尉・・・・・私と、勝負したいんでしょう。かかって来なさい」

はじめは、光刀を腰のスロットに収納すると、その場に停止した。その体勢は、まったくの無防備に見えた。

「それが勝負を挑む態度か!どこまでも俺をなめやがって!」

山本が渾身の力を込めて、白蓮に切りかかった。

その時、白蓮が黒い球体に包まれた。両翼は目いっぱいに展開され、翼はしなやかに広がり・・・・・・そして、機体の隙間からカゲロウのような透き通った羽を出した。まるでバリヤーのように、白蓮を包み込んだ黒い球体は、山本の機体をがっちりと受け止め、白蓮を守っているように見える。

全員が、白蓮の放つとてつもない気に圧倒された。何か、無限の広がりを感じる気だ。そこには、なにもない、ただ無限の。

「これが・・・朝日奈さんが・・・白蓮に選ばれた理由・・・・?」友之が呟いた。

「怒りも哀しみも憎しみも、それは荒荒しいだけの力であり、真の力ではない・・・私の師匠の言葉よ・・・・・・無心の心こそ、最強なり」

はじめは、眼をゆっくりと開いた。

「あなたの強さは・・・・・・・憎む心だけ・・・・だから・・・・勝てなかったのよ・・・私にじゃない・・・・自分に・・・・・」

「やめろ・・・・・・やめろ!」山本の頬を、なぜか涙がつたった。

「白真無念流一式・・・・”白虎蹂躙”」

対峙する二機を、今度は白い光が覆ったかと思うと、無数の火花が走った。そして、視界が晴れた時には、左腕で高々と山本機の胸のあたりをわしづかみにして持ち上げている白蓮がいた。山本機には幾つもの打撲があり、黒い翼はぼろぼろに組織がはがれ落ちていた。

「還りなさい」

と、はじめが静かに口にしたのと同時に、山本機の全身に亀裂が走った。

「ああ・・・・・あ・・・俺は・・・また、また負けるのか・・・・・・だが・・・・・・あいつに負ける度に・・・・・・・俺は、俺自身を憎んでいた・・・・・・・そういうことか・・・・・・・」

山本機は四散し、爆発した。ボロボロの装甲から、トレードマークのカジキのペイントだけは綺麗に残り、海に落ちた。まるで、海に帰った本物の魚のようだった。

「・・・・・・・作戦終了。これより帰投する」

息苦しさをふりほどこうとするように、はじめは戦闘服の襟を緩めた。

 


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