「みんな、ご苦労だった」
帰還してハンガーに集まった全員を
柳田が迎えた。

戦闘は終わっても、勝利の悦びには程遠かった。

「長官。私には訳がわかりません。
一度死んだ人間が蘇るなんて…
あれは人の魂を模した降魔なんでしょうか…?」
はじめが口を開いた。

「正直、私にも見当がつかない。撃墜された機体の残骸から、
何か判ればいいのだが…しかしね、朝日奈さん、
あまり思いつめないことだね」
柳田はもう、穏やかな表情に戻っていた。

「そうそう、あとはEMIでもなんでもいいから任せてさ、
そんなに肩をこわばらせてると、肩コリするよ?」

「うひゃあ!」
神崎がいきなり背後から肩を揉み始めたので、はじめは肩をすくめた。
他人に肩を触られると、くすぐったくてしょうがない体質だからだ。

「あいかわらず神速級に手が早いな…」
突っ込むのに疲れたのか、桜田が呆れたようにコメントした。

「下品だ…」
ユーリがぽつりと言った。

「ま、揉むのはどうあれ、神崎君の言うことももっともだと思うよ」
友之はどうでもいいような感じで笑っている。

「肩が敏感なタイプ?あとでメモしとこう」

「ちょ、ちょっともういいから!」

怪しい発言とくすぐったさで真っ赤になりながら、
はじめが慌てて神崎の手をふりほどいた。

「で、肩が弱点なのはのはどうあれ、みんな、色々と何か忘れてない?」
友之のメガネが怪しく光る。

「お、さすがに友之はいつもきっちりしてるな」
桜田と友之の謎の発言で、またしてもはじめは狐につままれた。

「あ、朝日奈さん、早速だけどみんなで写真撮るよー」
友之がはじめを手招きする。

「な、なに?」
「ほら、サッカーとかでもあるでしょ。戦闘記録も兼ねて、
戦闘参加者全員で撮影するんだ」

「そ、そう…」
「じゃ、僕の光武のメインカメラの方向いて〜」
腕時計のコンソールパネルで角度や画面を調整しながら、
友之がものものしく咳払いする。
「えー、それでは。僭越ながら、私が音頭をとります!」

「勝利のポーズ、決めっ!」

皆があまりにも特撮戦隊ヒーローのような(ある意味本職だが)
決めポーズを取ったので、
はじめは呆気にとられた表情のままカメラに収まってしまった。

「あの〜これは一体…」

「朝日奈さんっ!これは約百年前から続く帝国華撃団の伝統ですっ!」
友之が以下に千行は続く勢いで力説した。

「そ、そうなんだ」

友之に圧倒されたので、はじめは無理やり納得するしかなかった。

「おいおい、解説はあとでやってくれよ。忘れてることはもひとつあるだろ?」
いっちゃってる感のある友之に替わり、桜田が付け加えた。

「な、何?」
まだ何かとんでもないことやらされるんじゃないかと、はじめは不安になった。


「いや〜やっぱ春は桜だね〜」 神崎が満足そうに杯を傾けた。 一行は横須賀の衣笠山公園まで足を延ばして、 花見にやって来ていた。 「ちょっと、神崎君。乾杯の音頭がまだ済んでないよ」 ここでも友之が進行を管理している。 (友之君だけはなんとかマトモそうだと思ったんだけどなぁ) もはやあきらめモードのはじめである。 「ま、固いことは抜きにして、モリモリ食べて飲んでね。 君の歓迎会なんだから」 柳田が目くばせした。 「あ、ありがとうございます。…なんだか照れますけど…」 「それではー!突っ込まれた僕が音頭を取るよ。 はじめちゃんの着任を祝って乾杯〜!」 すでに少し出来上がっている神崎が明るく声を上げた。 「おまえにしちゃまともだな〜 てっきり俺は"はじめちゃん"にセクハラまがいのこと やらかすと思ってたんだが」 桜田も酒が入っているので容赦がない。 「まったく何をヨコシマな期待してるんだろ。 そんなに飢えてんのかな〜"桜"田くんだけに」 神崎はすっかり暴走が始まったようだ。 「下品だ…」 無表情ながらも、ちょっとユーリは顔が赤くなった。 「…こ、こ、このっ!誰がなんだってんだよ! オマエ、ホントに金持ちのぼっちゃんか!?」 「ところではじめちゃん、 僕の気持ちは変わらないからね。 コレは酔ってるから言ってるんじゃあないよ。 正直、好みのタイプなんだよ。 ひいおばあさまが言っていた 運命の出会い…本当の恋… それの本当の意味が今判ったような… いやもー本当にベタだけど コレしか言えない… 君の瞳に乾杯…」 「いや、完璧酔ってると思うよ…」 友之は、焼いている ねぎまを丁寧に裏返しながら突っ込む。 「人の怒りを放置するんじゃねえ! 誰彼かまわず口説きやがって 飢えてるのはどっちだこのハイエナが!!」 「男のヤキモチはみっともないよ〜桜田君」 神崎がまた湯沸し器と化した桜田を加熱する。 「だーかーらー、ベタベタ触ってんじゃねーっつの! おいはじめ!てーこく軍人ならこういう時こそ 鉄拳制裁だろうがよ!」 「あーらお子様には目の毒だったかなぁ」 「男四人揃えど姦しいとはコレいかに〜っとネギマ焼けたよ」 「…幼稚だ…ところで友之、コイツらと一緒にするな」 「まったまたぁ、ユーリだって楽しそうだよ!ネギマはどう?」 「…美味だ」 「ま、まあ二人とも、ネギマでも食べてケンカはやめたら」 はじめが力なく笑いながらネギマを差し出す。 「俺たちゃイヌかよ!」 「僕は喜んでキミのイヌになるけどな」 そういいながらも二人はねぎまをはじめから ひったくった。 「春ですねえ…」 柳田はにこやかに遠い目をしている。 (あの域に達するのに何十年かかるかなあ) はじめは感心して柳田を見つめた。 「朝日奈中尉」 いまだ大騒ぎの神崎と桜田をよそに、 ユーリが真剣な表情ではじめに向き直った。 「戦いは始まったばかりです。 くれぐれも油断しないでください… いや、油断ではなく…間違っても自暴自棄に ならないでください」 「…わかったわ」 「私は未だあなたに不安要素があると考えていますので。 それを忘れないでください」 「………肝に命じておくわ。だけどね、ユーリ。 なんだか久しぶりに桜を見て、あなた達を見てると… あたしは、まだまだやる事あるんだって…思えて来たよ」 はじめは空を見上げた。 穏やかな風が吹き、 はじめの髪がかすかに揺れて、桜の花びらが降りかかった。

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