「何、これ!?」
朝になって部屋の窓を開けた途端、 はじめは自分の目にする光景が信じられなかった。
眼下にはコンクリートでできた小さな箱のような建物が いくつも並び、道には多くの人間が走り回っていて、 撮影機材が雑然と置かれている。
遠くの方には、本物と見まごうばかりの街があるが、 クレーンやトラックが置かれ、 裏ががらんどうになっている。
「なんか・・・・映画とってるみたいだけど・・・・」
はじめは軍服を着て、身を整えると、 部屋を出た。
「あ、目が覚めたのか」
桜田が階段を降りかけている所だった。
「ちょ、ちょっとなんか外で撮影してるみたいなんだけど」
「それがどうかしたのか?」
「え??どうかしたって・・・」
「撮影所で撮影するのは当たり前だろう」
「は?」
「あ、そうか、言いかけたまま忘れてた。
ここは大船撮影所。で、そこに俺達華撃団の神奈川支部があるわけだ」
「は、はあ・・・・」
「しょーがないなー。案内してやるからついて来な」
二人が階段を降りて行くと、広いホールに出た。
「とりあえず、司令室に行かないとな」
初めて会った時のように、
またしても桜田は振り向かずに早足で行ってしまうので、背の低いはじめは大分ペースを上げなければならなかった。
まったく、コイツにはデリカシーが全然ないなー。信じらんない。
「あ、あの桜田君」
「ん?」
「昨日は・・・・どうもありがとう」
「なんについて?」
「そうね・・・・とりあえずは、いびつなおにぎりについて」
「おい、いびつって言い方はないんじゃないか?」
「友之君がそう言ったのよ」
「あいつ時々きついなぁ・・・・」
桜田が頭を掻いた。友之は穏やかなようで毒舌なのである。
「・・・・・!」
桜田が急に立ち止まったので、はじめは桜田の背中に激突した。
「いったぁー。急に止まらないでよ!」
「げ、やっかいなのが帰って来たなぁ・・・・」
「なに?」
正面玄関とみられる場所に、誰か立っている。
栗色の髪の、背の高い青年だ。涼しそうな目だが、気の強そうな顔。右の目もとに泣きぼくろがある。
服はさりげなく、全部高級ブランドだ。
「よー桜田君。久しぶり」
「か、神崎・・・・・」
神崎?そう、帝国華撃団創始の頃から光武を開発している神崎財閥の御曹司である。自ら華撃団で幾度の激戦に参戦し、後世で神崎財閥を一層繁栄させ、巨大企業に成長させて「鋼鉄の女帝」と恐れられた神崎すみれのひ孫である。
(いいか、とりあえず俺の後ろに隠れてろ)
桜田が小声ではじめに言った。
「?」
またしても、はじめはわけがわからなくなった。
「ど、どうだった?光武のパーツの搬入はうまくいったのか」
桜田がぎこちなく、なんとか後ろのはじめを隠しながら声をかける。
「当然じゃないか。ボクにビジネスの事はまかせといてくれ」
「そ、そうかよかったな」
桜田のぎこちない言動など耳に入らない様子で、神崎は自画自賛モードに入っている。
「それにしても参ったよ、いきなり新型の装備もないまま実戦で使われちゃったからね。おかげで生産ラインをフル回転しなくちゃならなくなって、本来なら加工賃やらなんやらで単価高くなっちゃう所なんだけど、なんとかそこを僕の手腕で特価交渉してだね・・・」
「ご、ごめんなさい・・・・」
はじめが思わず声を出した。
(あーバカ・・・・もう遅いか・・・・)
桜田が頭を抱えた。
「!」
はじめを見ると、神崎の目がひときわ輝きだした。
「そうか、君が・・・・・」
神崎はつかつかと、桜田を軽くつきとばして、はじめの方に歩み寄った。
「朝日奈はじめです。本部隊に隊長として着任することに・・・」
はじめが固めの挨拶をしようとすると、神崎がそっとはじめの手を取った。
「かわいい手だね」
「へ???」
「いいんだ、新型の修理なんか。君が無事でいてくれたのだから・・・・」
「はぁ。ありがとう」
はじめは神崎の熱っぽい目に萎縮した。
「ひいおばあさまが言ってたよ。本当に好きな人と恋をしなさいって」
「????」
「もう、僕の瞳には君しか映っていない!」
「そりゃ、こんだけ近くで話していれば、まあそうね」
「せっかくだから、今夜一緒に食事しよう。横浜プリンスに
最高の部屋をとっておくよ」
「ちょ、ちょっと・・・(何がせっかくだからなんだ?)」
神崎がはじめに殆どのしかからんばかりに顔を近づけた。
「よさんか、この色ボケ!!」
桜田がたまらず後ろから神崎の頭を殴った。
「グーで殴るなよ、桜田君」
「おまえの持病は死ななきゃ治らんだろうがな・・・」
「とにかくあっち行ってろ!おいこら、この生物はほっといて司令室行くぞ」
桜田がどうにも相手にしきれないといった調子で歩き出したので、
「ちょ、ちょっと待ってよ・・それじゃ・・・・」はじめが神崎に会釈すると、
「神崎直哉です。神崎で結構ですよ、はじめちゃん」
(うぅぅ・・・・・なんか調子狂うなあ・・・・)はじめは脱力しながら、逃げるように桜田の後を追った。
「だあーっなんなのあの人?調子狂うなぁ・・・・」
「女と見るととりあえず口説くのが礼儀だと信じてるからな。あんまり本気にするなよ」
「そ、そう・・・たまにいるわねそういう人」
「ま、あんな奴だが金まわりのこととか、めんどくさい交渉だとかにかけちゃ、あいつは天才的な所があるから、あれさえ治ればいいんだが・・・」
二人は、事務室と書かれたドアの前にさしかかった。
「おい、せっかくだから、事務室のみんなにあいさつしていけば」
「あのねーさっきからあんたはなんなの、人を呼ぶ時はきちんと名前で呼びなさい!誰のことだかわかんないでしょ」
「じゃあ、はじめ」
「ぐっ・・・・・あんたたち、あたしのことナメてるの?」
「はーん。隊長殿は貧弱な武装で飛び出したあげくに俺達に助け出されたのでわなかったカネ?」
「んっもー信じらんない!!超絶むかつくぅぅぅ!!」
はじめは痛いところをつかれたので、とりあえず怒るしかなかった。
「おっ図星つかれてどうしようもなくなってんだろ」
「なによー!それじゃ、白蓮が完全装備されたら、演習も兼ねてアンタと一騎打ちしてやる!!決闘よ!!」
「望む所だ。吠え面かくなよこのタコ!」
もうほとんど子供のケンカである。
「それくらいにしといたら、桜田くん。ドア越しでもまる聞こえよ」
事務室のドアが開いて、長い髪の穏やかそうな女性が顔を出した。
「あ、すんません藤原さん」
「あなたが朝日奈さん?もう体の具合はいいの?」
「は、はい・・・・・すみません・・・・」
はじめは真っ赤になった。この穏やかな女性にさっきの子供っぽい口ゲンカを聞かれたと思うと、姉に怒られる妹のような気持ちになった。
「私、藤原 かなえっていいます。大船撮影所の事務をやってます。どうぞよろしく」
ドアの向こうには一般の会社のオフィスと同じように、パソコンやデスクが置かれ、かなえの他に、2人のスタッフがいた。
「あ、朝日奈中尉でしょ?うわー知ってますよぉ、インドシナ戦役で活躍した空軍のエースパイロットって聞いてたけど、全然そんな風に見えないなー」
黒ぶちのメガネでさっぱりとした髪型の、頭の回転が早そうな青年が声をかけた。
「え?な、なんでそんな事・・・・」
「あ、僕は経理とかのコンピュータのシステム開発を撮影所では担当してるけど、
ここの事務室にいる全員、ホントの任務は空中旗艦「はやせ」のブリッジオペレーターっスから、一応軍人ですよ。それに僕は情報通でもあるんですよ、なんでもわからない事は聞いてくださいね。倉田 利彦っていいます」
「倉田君の情報はけっこうヤバイ手段で拾ってんのよねぇ、この前だって帝国軍情報部(EMI)のデータバンクにハッキングし・・・・」
「さ、さーて、君の自己紹介の番じゃないかなぁ、杉浦さん」
倉田に突っ込んだ女性が顔を見せた。いかにも元気いっぱいの、ショートボブの髪型で、小柄である。かすかに見えるそばかすが、彼女の溌剌さを代弁してくれている。
「杉浦 ぼたん っていいまーす。新入社員なんで、ドジばっかしなんですけど、よろしくお願いしますねー」
「みなさん、よろしくお願いします。私もなんだかドジばっかりで・・・・・」
「ドジばっかでって、自分で解ってんだったらもちっと隊長らしくしろよなー」
桜田がまたしてもきつい突っ込みを入れた。
「あ・ん・たもちょっとは軍人らしくしたらどおなの!」
「ふん、俺は正規軍じゃないんだからな!第一、おまえの背じゃ俺に鉄拳制裁も
できないんじゃない?」
「この、言ったわねぇ!桜田少尉、歯を食いしばってそこに立ちなさぁぁい!!」
はじめは鉄拳制裁・・・・もとい、桜田の顔にビンタを食らわそうとしたが、桜田に頭を押さえられて、手が顔に届かない。ほとんど昔のマンガのような図式になってしまった。
「な、なんでそういじめるわけ!?あたしに恨みでもあんの?」
「だから、俺はそういう軍人くさい事は大キライなんだよー。ま、その前にオマエ自身におよそ威厳がないのも原因じゃないの」
「あらら、すっかり仲良しさんなのね、桜田君と朝日奈さん」
かなえがにこにこ笑って二人のやりとりを見守っている。
「ほんとー。も、らぶらぶって感じぃー」
ぼたんが調子を合わせる。
「だ、だーれがこんな奴と!」
このセリフだけは二人とも息がぴったりである。
「とにかく、隣の部屋が司令の部屋だからな。俺は午後から撮りの訓練があるから忙しいんだよ、じゃあな」
桜田が慌ただしく出て行った。
「撮り?なんなのまた、わけわかんない事言って・・・・」
「照れちゃったんでしょ、かわいいとこあるわね」
「か、かなえさん、からかわないでくださいよ」
「はいはい。それはともかく、桜田君はバイクのスタントをやっているのよ。」
「バイクのスタントって・・・映画とかテレビとかの?」
「そう、そのスタント。特に『宇宙刑事ギリアンMK2』のバイクスタントがメインですね」
倉田が付け加えた。
「宇宙刑事って、あの特撮シリーズの?」
「そう、その最新シリーズ。主演は加納剛司」
「はぁ。そう・・・・」
「ちなみに、神崎君はカースタント専門です。メインは『サイバーナイト2200』です。たまには自分が主演したいってぶつぶつ言ってますけどね、彼のスタントは派手な割に本編になると目立ってなかったりするんですよ」
やれやれ、ウワサには聞いてたけど、華撃団ってのは派手な所ねぇ・・・・
はじめはめまいがしてきた。
「友之君は?とても彼がスタントをするようには見えないけど」
「友之君は、爆破特殊効果とか担当してます。映える爆発の見せ方が天才的ですよ。
おとなしい顔して、相当な爆発マニアなんですよ」
「な、なんかすごい事やってんのねみんな・・・」
「ヒマがあったら、撮影現場に行ってみるといいですよ。結構おもしろいっすよ」
「そ、そうね・・・・じゃ、その前にそろそろ司令室に行くわ。ありがとう、みなさん。これからよろしくお願いしますね」
「はーい。じゃ、またお話しましょうねー、朝日奈さん」
ぼたんが明るい顔で見送ってくれた。とりあえず、事務の人達は少なくともまともそうだ。残るは司令か・・・・いや、まだ会っていない隊員がいるかもしれない。
小隊編成は6人、つまり今まで会ったのが神崎、桜田、友之と3人だから、はじめを含めて4人。ということは、あと二人。げー。それを考えるだけで、はじめは胃が痛くなった。
はじめが司令室をノックしようとすると、丁度ドアが開いて、誰かが出て来た。金髪の青年だ。外国の将校かな、とはじめは一瞬思ったが、帝国軍の軍服だ。
「・・・・・・・もしかして、あなたが朝日奈中尉、ですか?」
青年の口調は完璧な日本語だ。
「はい、帝国空軍より派遣されました朝日奈はじめ中尉です。
正式には昨日着任するはずでしたが、あんな事になってしまって・・・」
「自分はユーリ・ミハイロフ・雪野といいます。帝国華撃団の副隊長を務めることになっています。」
人を射るような鋭い目つきだ。長い前髪で隠すようにはしているが、右目に傷が走っている。戦場の匂いを感じさせる顔だ。はじめは、本能的にそれがわかった。
「自分の顔に何かついていますか」
「いえ・・・・」
「自分はロシア人との混血ですが、日本を祖国と思っています。」
「いえ、そんな、あなたの外見の事を珍しいとかいう意味じゃないわ。失礼とは思うけど、実戦経験を多く積まれた方のように見えたのでね」
「そういうあなたはどうなんですか?失礼ながら、自分は驚いています。あなたの経歴から想像していた外見とあまりに違うので・・・」
「え?そうですか?」
「うらやましいです。それだけ殺気を隠せるのですからね」
「・・・・どういう意味かしら、それ」
「戦場で力を発揮する事は、経験年数で決まるわけではありません。本能的に
それを知っている者もいます。それが、わすか1年の戦争であってもね」
「買いかぶりすぎですよ、私は初陣でみじめにタコ殴りにされそうな所を助け出されたのだから」
「そうでしょうか?自分も先の戦闘記録を見ましたが、普通の人間なら
死んでいたでしょうね」
「そうでしょうか?」
「しかし、どんな事情があるにせよ、死に急ぐような行動をとる人を隊長と認めるわけにはいきません。それだけは、覚えておいてください」
「・・・・・・・・!」
ユーリは、冷たい視線ではじめを一瞥すると、踵を返して去っていった。
やれやれ、はっきり言ってくれちゃうわ、桜田君より手厳しいかもしれないな。
はじめは肩をすくめて、司令室をノックした。
「どうぞ」落ち着いたバリトンの声が帰って来た。
入ると、奥のどっしりとした机に、初老の紳士然とした、白髪混じりの男性が紅茶を飲んでいた。穏やかで、それでいて威厳のある風貌はどちらかというと大学教授を彷彿とさせる。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。昨日4月5日より帝国華撃団宇宙組隊長を拝命いたしました、朝日奈はじめ中尉です。」
「初日から大変でしたね、朝日奈さん。私は司令の柳田高雄です」
「申し訳ありません、どんな処罰でも受ける覚悟です」
「何を言うんだね、君はあんな武装の機体で敵陣の3分の1を潰した。それに、君は生きて帰って来た。それだけで立派な功績だよ。あれは誰の責任でも無い。しかし、戦力の準備が十分でなかった責は軍上層部にある。それについては謝りたい」
「そんな・・・」
「現に、最初に迎撃に行った帝国空軍横須賀基地の第五十六飛行光武小隊は・・・・全滅した。しかも防衛ラインを突破され、桜木町に被害が及んだ。非常に大きな犠牲だった・・・」
「全滅・・・・したんですか・・・第五十六部隊・・・が・・」
「戦力を甘く見た軍上層部は、対応が鈍く、帝国華撃団への出撃要請もなかなかしようとしなかった。敵の操る魔操機は、霊力を一定以上持ったパイロットの操る光武でなくては歯が立たないという事実を認めたがらないばかりに・・・」
はじめは、やれやれ、と思った.いつの時代もこーゆうしがらみってあるのよね.
「最も我々の持つ特殊な光武は通常兵器としては強力すぎるのだがね。君も見たろう、完全装備したあの2機の光武を」
「ええ、すさまじい威力ですね・・・火力が他の光武と段違いですし、あの反応速度は生物そのもの・・・いやそれ以上かもしれません」
「SERAPH SYSTEMと呼ばれる、禁断のシステムだ。降魔の遺伝子を運動性能に組み込み、強力な霊力とAIで制御する。武器の命中率も格段にアップし、パイロットの意志に忠実に従い、細やかな調整が可能だ」
「しかし、なぜ今になって降魔が責めて来るのでしょうか?」
「詳しくは解らない・・・・だが、人類史上、多くの血が流されると、降魔も進化していくという話だがね。」
「先の大戦のせいでしょうか?」
「もう半世紀以上経っているね。我が国で本土決戦が行われたのは」
『翔和』と呼ばれた時代、世界で2度目の大戦が起きた。その大戦時、極東の島国でしかないが、絶大な技術力、特に量産型光武や空中戦艦といった軍事技術力を持った日本を恐れた欧米列強は日本帝国に対し、宣戦布告した。
戦局は苦しく、毎日のように日本本土に米国からの爆撃を受けた。ついには沖縄を突破され、本土に米英の連合軍が上陸したが、突如、ロシアが日本の後ろ盾に廻った。資本主義と社会主義の対立が激しくなった事もあり、鼻の先に米国の傘下の国が仕立て上げられるのを恐れたためだ。しかし、その突然の劇的な寝返りには、帝国情報部の暗躍があったとも言われている。ともあれ、ロシアの資金援助で次々と新型の光武、特に陸戦用光武が量産され、本土決戦で絶大な威力を発揮した。また、空には突如として霊子砲装備の超巨大空中戦艦、ミカサ参号がその姿を現わし、日本の空域を守った。こうして、日本は第2次世界大戦の勝利国のひとつとなったが、本土決戦において払われた犠牲は絶大だった。その後遺症で、日本は人口密度の少ない国となってしまった。(注;この作品はファンタジーです。実際の史実・国名とは一切関係ありません)
「つまり、日本本土で大きな戦があってからほぼ一世紀のスパンで降魔が劇的な進化を遂げ、人類を襲う行動に出る、と?」
「あくまで憶測に過ぎないがね、そうだとしたら我々人類の負の遺産でもあると思うのだよ、これも我々の、醜い別の魂の形なのだと」
「・・・そうですね、そうかもしれません」
「だからこそ、我々と降魔はどこかつながっている。それが、SERAPH SYSTEMの
基本概念でもある」
「・・・・・・・」はじめは白蓮から聞こえたあの声のことを思い出した。
あなたは、わたし。 背筋が寒くなった。
「ま、そんな事は追い追い考えるとして、もっと気を楽にしなさい。そこにかけて。今、おいしい紅茶を入れるから」
「は、はいありがとうございます」
「それにしてもこううららかな陽気だと、昔の事を思い出しますねぇ・・・思えば私が帝国海軍士官学校の頃・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからはじめは2時間ばかり、柳田司令の青春時代の思い出話を聞くはめになった。それなりに面白かったが、なにぶん話が長すぎる。自分まで十年くらい一気に年をとってしまったような感じすらする。
ちょっと拷問である。
「ところで、隊員のみんなには会いましたか?」
ようやく柳田司令の思い出話から開放されて、はじめは我に帰った。
「ええ、まあ・・・・まだあと一人会っていませんが」
「ああ、あと一人はまだ中国に留学していましてね、もうすぐ帰ってきますよ」
「じゃあ、今のところの全員には会ったことになりますけど・・・なんだかなめられているみたいです・・・・・私が到らないばかりでして・・・」
「ははは、すみません、びっくりしたでしょう、みんな好き放題な物言いで」
「い、いえ、そんな・・・・」
「でもね、軍内部にはここを金食い虫のモルモット部隊とか、陰口を叩く者もいます。言い訳がましいけど、私はね、できるだけ彼等を自由にさせていたいのです。最も、本当に弁解でしかないね・・・得体の知れない新型光武に乗せているのだからね」
「・・・・・・」
「でも、この命を投げてでも、私はあの子達を守るつもりだ。君も含めてね」
「柳田司令・・・」
「どうか、これからよろしくお願いします、朝日奈中尉」
「は、はい、こちらこそ。朝日奈はじめ、粉骨砕身の決意で頑張ります!!
帝国軍人の名にかけて!!」
はじめは立ち上がって敬礼した。
「ははは、そんなに固くならないでいいですよ。じゃ、最初の任務を与えましょうか」
「はい!」
「とりあえず、部屋に行って私服に着替えて来なさい」
「はい?」
「なるべく動きやすいやつね」
「はぁ・・・・」
「そしたら、事務室に行ってかなえくんに指示をもらってね」
「わ、わかりました。失礼します・・・」
わけがわからないまま、はじめは司令室のドアを閉めた。廊下に出ると、友之が作業服のつなぎを着て、何やら重いバケツを運んでいる。
「友之くん、重そうね。手伝おうか?」
「あ、大丈夫だよ朝日奈さん。それにこれ、爆薬の材料だから危険だよ」
「そ、そう・・・・倉田君から聞いたんだけど、撮影の特殊効果みたいなこやってるんだって?今度はどんなのやるの?」
はじめがそう訪ねると、友之のメガネと眼が輝き出した。
「ふふ・・・・・よくぞ聞いてくれました。港の倉庫のセットを連続爆破させて、そっからバイクで脱出!ってなことをやるんだけど、連続爆破のタイミングが難しいんだ。でも、成功したらそれは美しい爆発になるよー。」
(眼がいっちゃってる・・・・・)と思ったので、
「そ、そう、がんばってね」と言ってはじめは自分の部屋に向かった。
「とりあえず、着替えるか」
確かに、ここの雰囲気に軍服は合っていないようだ。はじめは部屋に戻ってTシャツとカーキパンツに着替えた。
それにしても、いつになったら軍隊らしい事をやるのかしら?私の光武だってまだまだ慣らしが必要なんじゃないのかなあ・・・・・・・
「かなえさん、司令から、かなえさんに指示を頂くようにって言われたんですけど・・・」
はじめが事務室に入ると、かなえが笑顔で迎えてくれた。
「あらぁ、私服だとますます、軍人に見えないわね。実はね、今日から朝日奈さんには隊員のみんなのマネージャーになってもらいたいの」
「へ?マネージャーって、なんの?」
「撮影のスケジュール管理とか、生命保険の更新のチェックとか」
「えーっとそれって、芸能人とかについてるマネージャーのこと?」
「まあ、隊員のみんなはスタントマンやスタッフをやっているから、厳密に言えば決して顔を表に出さない芸能人みたいなものかしらね」
「あはは・・・・・そ、そうですか」はじめは顔をひきつらせて笑うしかなかった。
「聞いたよ、はじめちゃん」
「わっ何!?」
いきなり耳元でバタくさい声が聞こえたので、はじめは飛びのいた。
振り向くと、神崎がうれしそうな顔で立っている。
「これから、君が僕の側にいてくれるんだね・・・・・」
「へ、ヘンな言い方しないでくれる!?」
「あ、神崎君、丁度よかったわ。朝日奈さんと一緒に撮影現場に向かってくれる?」
かなえがこともなげに言った。あいかわらず菩薩のような微笑をたたえながら。
「えぇぇ?そ、そんな、かなえさん・・・・」
「だーいじょうぶだよ、僕が色々教えてあげるよ、さぁ行こう!」
はじめは、半ばひきずられるように神崎に連れていかれた。
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