自室に戻って洗面用具やタオルを置くと、はじめはちらっと鏡を見た。
(…そんなにからかわれる程、態度が豹変してたのかな)
と、自分を問いつめるように目のあたりを鏡に近づけてみた。
(…それにしても、素敵な人だったなあ…それに、あの人にも少し似てるし…誰なんだろうなぁ)
「あの人」という言葉が頭の中で浮かんだ途端、彼女の胸はちくりと痛んだ。
(…やめよう。せっかく、あのにぎやかな人達に囲まれて忘れかけているのに。それに私は…)
はじめははぐらかすように時計を見た。
(もうそろそろ、プリーフィングの時間だし、"隊長さん"に戻らないとね)
顔を上げて扉を開く時には、もうはじめは軍人の顔になっていた。廊下に出ると、ユーリにばったり出くわした。
「…中尉、色々と大変でしたね」
「…いえ…こちらこそドタバタしっぱなしで悪かったわ」
二人はエレベーターに乗ると、所在なげに階数表示が切り替わるのを見つめた。
「中尉、熊三のことですけど」
「ん?」
「戦力としては私も申し分なく頼れると思います。…ですがまだ若いので…その…色々と感受性が高いと思うんですが、大目に見てやってくれませんか」
「…ふふ」
「…中尉?」
「…いや、仲が良くて羨ましいなって思っただけ」
「あ、あの…いえ、先程のセクハラを許せと言うわけではなく…
熊三は感情のコントロールが桜田以上にムラがある時があります。そ、それを申し上げたかっただけです」
「わかったわ。親友のあなたがそう言うのなら。
…それにね、心配しなくても、熊三君には私もどうも甘くなっちゃいそうだし、その時はユーリが替わりに叱ってあげて」
はじめは背中を少しエレベーターの壁にもたれて、はいはいわかりました、というように笑った。とにかく熊三効果なのか、今のユーリは人間らしくて、はじめは見るのが面白かった。
「……ありがとうございます中尉…」
ユーリは明らかに照れくさそうにしていた。熊三のもたらすもの、それは絶大なものかもしれない。はじめはそう思い始めていた。作戦会議室に着くと、友之がディスプレイを空間に沢山投影させて、また何か打ち込んでいた。
(ま、また爆発するんじゃ…)という不安がはじめの頭をよぎったが、二人に気が付いた友之は、いつもの優しい目の方の友之だったので、はじめは胸を撫で下ろした。
「あ、ユーリと朝日奈さん。ちょうどよかった。今度から熊三君の光武「赤雷」が編成に加わるから、隊長と副隊長の意見を聞いて調整しようと思ってね」
「へえ…どれどれ。これが"赤雷"…ホントに近接格闘に特化した機体みたいね」
ディスプレイに映し出されている、両拳の装甲の分厚いSS型光武を、はじめは興味深く見つめた。
「でしょ?それに赤ペイントはやっぱり機動性も良いってイメージあるから、それに恥じないよう、
素早く懐にもぐりこんで一気に急所を叩くって戦法がセオリーなんだ」
(こういう話をしている時、友之君は本当に楽しそうだな)
とはじめはいつもよりひときわ輝く友之の眼鏡を見て思った。
「なるほど。市街戦に持ち込まれた時に本領発揮できそうね」
「その通りです中尉。これからは中尉、桜田、熊三で前衛のフォーメーションを組むことになりますね」
ユーリもディスプレイを覗きこんでスペックを見た。そのスペックを見て、
(………また改造したのか友之……)と内心思ったが黙っておいた。
「そうね、あと、これだけ機動性の自由度が高ければ、伏兵としての効果も期待できるわ。…だけど、射程は短そうね」
「そうなんだよねえ。ここまで近接格闘用の武装を強化したら、遠距離用の通常装備を削っていかないと、とんでもなく鈍重な
機体になってしまうんだ。そうなったら赤い機体の面目が立たないしね。ある意味ピーキーな機体だよ」
「…だから格闘家の熊三君にしか扱えないってわけね」
(…なんで赤い機体と機動性が関係あるんだろ)と内心思ったが、
「いいわ、なんでもかんでも一機で補う単独編成じゃないんだから、赤雷が目標に近付くまでに攻撃を受けないよう、
ユーリと友之君でバックアップする編成が必要ね。その時はよろしくね、二人とも」
はじめはユーリと友之を折り入って見つめた。
「了解です」
「まっかせてください。こんなこともあろうかと、ユーリの"黒耀"と僕の”緑莱"のAIに"赤雷"、"白蓮"、"青燐"それぞれの
動きをシミュレートしてある程度の動きを予測するプログラムを組んでおいたんだ。」
友之が眼鏡を指で押し上げて、得意げに語った。
「……いつの間に…」ユーリがちょっと面食らった。
「ふっふっふ。今日の演習については僕の方からも長官に提案したんだ。みんなの動きをAIにナマで学習させるいい機会だし、
赤雷の分は過去の実戦データが他の機体よりも豊富だから、そっからデータ引っこ抜けばいいしね」
「ありがとう友之君。…でも短期間にここまで調整するなんて、大分、根詰めたんじゃない?大丈夫?
…それに、私の機体まであんなトラブル起こしちゃって…ごめんなさい」
レンズの奥の友之の目の下に、かなりの疲労の痕跡を発見して、彼女ははっとなった。きっと何日もろくに寝て
いないのだろう。
「いや、いいんだ。予想外のことは起こるものだし…人が乗ってる機械を調整する者は充分に慎重にならなきゃ。…
朝日奈さんのトラブルは僕の未熟さのせいだ。あなたが謝ることじゃないよ」
「友之君…そんなに思いつめないで。誰のせいとか、決めるもんじゃないわ」
はじめは友之が急に真剣な顔になったので、反省した。思えば初陣で、そして今回の演習で、白蓮が二回も
調整が完全でなかったことで、そして搭乗者のはじめに直接、身体的影響が出たことで、どれだけ
友之の胸がしめつけられる思いだったか、どれだけ自分を責めていたか…それに気付いてあげられなかった自分を
彼女は恥じた。彼女はそっと友之の肩に手を置いた。
「…中尉の言う通りだ友之。お前は少し自責の念が強すぎる。病は気からと言うだろう」
ユーリの顔も、今は優しかった。
「…ありがとう二人とも。あとで、僕も月餅でお茶を飲もうかな」
肩の荷が降りたように、友之は椅子の背にもたれて、膝に乗っているココの喉を撫でた。
「ふふ。実はね、みんな友之君があがるまで手をつけてないのよ、あの月餅は」
はじめはいたずらっぽく笑った。
「熊三の絶対命令が降りてるからな」
ユーリも少し肩をすくめて笑った。
「…あはは。熊三君の無理が続かないうちに、ちゃんと報告しなきゃね」
三人に温かい空気が流れた。
「ありゃ、さっすが先生二人にハカセは早いなぁ〜」
噂をすれば何とやらで、熊三が姿を現した。
「ちょっと、何よ先生二人って!失礼じゃない!?」
はじめはちょっとむくれた。
「フッ…噂をすれば影だな…」
どうやらユーリは諺が好きらしい。
「…なんだ?俺の噂か?いや〜照れるなぁ俺が白い鳩の似合うアクションスターだなんて」
「…誰も言ってないって…」
先生二人とハカセはいっせいにつっこんだ。
「鳩とかコートとか、もう少し背の高い人の方が似合うんじゃないの?まったく、自分に合ったセンスを磨きなよ」
神崎もどこからともなく顔と出した。
「うっ…人が気にしてることを…なんでそうズバズバ物を言うんだよ!おめーの言葉は抜き身の刃物みてーだな」
「キミみたいになんでもかんでも荒い奴見ると、つい親切で削ってあげたくなるだけだよ」
「にゃんだと〜!」
「面白い。神崎風塵流の削り節になるかい!?」
「そこらへんにしときなさい二人とも。もうすぐ司令が来るわ」
(…まったくこの二人の問題もなんとかしなきゃいけないわね…)とはじめは
つくづく思った。
「は〜い先生」熊三がおどけてみせた。
「先生はよしなさいッ!そんなにトシは違わないでしょ!?」
「確かに威厳がないから先生にはなれんな〜おまえは」
桜田も作戦会議室に到着した所だった。
「あんたねえ…」とはじめまで桜田とケンカを始めそうになったが、
(は!いけないいけない)と思いとどまった。「みんな、集まってるようだな」
先程の喧騒など全く耳に入ってないような様子の柳田と、それに続いてぼたんとかなえ、倉田が部屋に入って来た。
柳田が入っただけでピシっと空気がひきしまってしまう所は、流石は長官である。
「みんなに集まってもらったのは他でもない。実戦部隊である君達には少し眠い話かもしれないが、
敵の情報が少し集まって来ているので報告を行う。倉田君、はじめてくれたまえ」
「はい。帝国華撃団月組と、EMI(帝国軍情報部)からの情報収集結果と、こちらでも過去の歴代華撃団のデータベースから
洗ってみた結果を中間報告します」
倉田が部屋を少し暗くして、空間ディスプレイのサイズを広げた。
「今から約100年前の数回に渡る都市型の対降魔戦争、それに江戸時代などにも確認されていますが…降魔及び魔術を操る異種生命体は"反魂の術"と言われるテクノロジーを有しています。これは一度生命活動を停止した生物を再び蘇らせます。帝国霊子学研究所長の香田英一博士の研究によると、彼らは人類が未だ成し得ていない"記憶、魂のコピー"の技術があるということです。これは謎に包まれていますが、彼らは死んだ肉体から脳の記憶情報のみを抽出し、肉体のコピーにそれを埋め込むことで、いつでも死者を意のままに蘇らせ、操ることができます。…ぼたんちゃん、次の資料お願い」
倉田は一息つくと、ぼたんの方に目で合図した。ぼたんが手早くディスプレイを操作する。
「…さらに、今回、横須賀沖に現れた第五十六帝国空軍部隊…それとその周囲に現れた30機ほどの同軍の三年前の汎用機"雨雲"ですが…いずれも死体というべきものが存在しません。五十六部隊は、最初に全滅した本物の方の遺体は全て確認しました」
「……」
はじめはディスプレイに映し出された本物の五十六部隊の機体の残骸を見て、心が痛んだ。あの山本大尉と、あの自分の目の前で戦死した"白刃"109号機のパイロット…そんなシーンが次々と
脳裏によぎった。人は、時間はなんと残酷なのだろう。もう彼らの死は時に飲まれようとしている。
"どうして俺達を見殺しにした奴らを守ってやらなきゃならねえんだ!?"という山本大尉の怨念の声を、確かに彼女は聞いたのだ。
確かに、聞いたのだ。…そして、あの時も……私は何もできなかった。
(…おい、はじめ、どうかしたのか)
桜田が小声で話し掛けた。桜田は、彼女が時々見せる悲痛な表情が気になっていた。彼はそれを見ると
いいようのない不安をおぼえた。どこか、彼女が遠くへ行ってしまうような。
(どうもしないわ)
そう言いながら、桜田が声をかけてくれたことに、はじめは内心感謝して微笑んだ。
「香田英一博士の理論によると、彼らは別の次元と繋がっており…我々の世界の生命体を介すればより長くこちらで活動できます。それ故に、死者の記憶と肉体のコピーを媒介にし、肉体が再び消失すればこちらの世界とのコネクトは一時中断し、肉体は彼らの世界に還ります。しかし、それは一時的なもので…彼らはまた新たな媒介を通してこちらへ接触を繰り返します」
「え〜〜〜と…要するに…奴らはバケモンでぇ…幽霊が手下で…アジトはわかんねーんだよな?」
「…ここまで話してるのに、ミもフタもない結論言わないでくれよ熊三くん」
倉田は少し脱力したが、これを機に水をひと口入れた。
「アジトっていうかなんというか…結局は彼らがコンタクトするまでこちらは何もわからないってこと?」
「待って朝日奈さん。それについては僕から説明する」
友之が立ち上がった。
「対策としては、彼らが反魂の術という技を使う時に発生する膨大なマイナスの霊子力エネルギーが確認されているんだ。
これをこちらの超感度霊子力センサーにかけて警戒していれば、ある程度のポイント予測はできる。…といっても本当に出現する一歩手前でしか計測できないから、ほとんど警報程度にしかならないけどね。これを反魂ポイントと呼称してる」
「…今後、この反魂ポイントが計測されれば、君達にもスクランブルがかかるようになるだろう。ただし、彼らは反魂の術を使わずに直接、下級降魔や魔操機兵を送り込むケースも従来通り予想できる。その場合は、状況が発生してから対処するしかない」
柳田が続けた。
「続いて、月組とEMIの報告です」
かなえが倉田と交替した。
「月組の報告によれば…政界、財界において、奇妙な死亡事件が続いています。どれも証拠が特定できない、不可解な事件になっています。一貫しているのは、どの被害者も決して表舞台には出ませんが、実質的に絶大な影響力を持っている人物ばかりでした。それが突然の病死、交通事故死、自殺など…そしてその各被害者は同じ時刻に死亡しています」
「…アレか。おかげで今の政界、財界のパワーバランスは滅茶苦茶になってる。最も、被害者はいずれもかなり悪どい人物だったんで、不謹慎だが歓迎してる輩さえいるけどね」
神崎が真剣な面持ちで言った。
「…はぁ。そういう連中の方がバケモノじみてる気がするけどな」
桜田はかかわりたくないな、といった表情で嫌悪をあらわにした。
「…桜田君の言う通り…彼らが反魂の術で操るためにその人達を殺したとは考えられないか、という仮説をこちらは立てているんだ」
倉田が桜田の言葉を拾った。
「マジかよ?なんだか実感わかねえっていうか…」
「…どんな敵が来ても叩くまでだ。それしか我々には選択の余地はない」
ユーリが静かに口を開いた。
「……」
「かなえさん、続けてください」
またしても桜田とユーリが険悪な雰囲気になっているので、それをはぐらかすように
はじめはかなえに声をかけた。一番根深い対立はこの二人かもしれない、とはじめは頭を抱えた。
「わかりました」
かなえはそれを察してくれたのか、はじめに向かって微笑んだ。
「続いてEMIからの報告結果です。最近、日本国内及び海外でもテロ活動を行う、"紅蜥蜴"という組織についてです。構成員は多国籍で、全ての国、地域に対応しています。彼らはカルト教団が過激になったものと考えられており、彼らの理念は"俗物的概念かつ非生産的な種族維持の放棄、精神のみの存在への昇華"ということだそうです」
「…何だかさっぱりわかんね〜」
熊三が音を上げた。
「セックスして子供を作るより精神のみで生きつづけたいってことだよ。わかったかいお子様」
神崎がバッサリと言った。
「だーれがお子様だっ!俺だってそんくらい知ってる!」
「じゃ、さっきかなえさんが言った紅蜥蜴団の理念を復唱してみなよ」
「もう、やめなさい神崎君、熊三君。す、すみませんかなえさん」
はじめは恥ずかしそうにかなえに謝ったが、
「いえいえ、難しい所があったら今みたいに解説してくれると助かるわ」
と、かなえは笑みを絶やさなかった。
「…ところで、その概念、気になりますね。まるで降魔や反魂の術に憧れているような…」
はじめは神崎と熊三をすこし手で牽制しつつ、話を戻した。
「そうなんです。この"紅蜥蜴"はネットなどを介して巧妙に人々を先導し、構成員を増やしています。…そして、自分達が必ず精神だけの存在になって復活できると信じ、テロ実行犯は自殺する傾向があります。そのため、捜査は難航しています。しかし、紅蜥蜴団パリ支部に突入しようとしたフランスの特殊部隊が魔操機兵に遭遇し…急遽、巴里華撃団が出動したそうです」
「巴里華撃団だって!? 殆ど伝説みたいになってたけど、ホントにあるんだな」
ディスプレイに映し出された巴里華撃団の姿を見て、桜田は驚嘆した。
「あそこはフォンティーヌ大教会、バチカン、ライラック財団などのバックボーンが強いから装備も強力だね。それにチームワークもいい。こっちも見習わないとな」
神崎は結構、面識がありそうだった。
「神崎重工とブルーメールコンツェルンとの技術提携によるプロジェクトは順調に進んでますね」
ぼたんが開発資料とプロジェクトの進行状況を表示した。
「ん〜いい資料作りだねぼたんちゃん。今度、桜木町のチーズケーキ奢るからね」
「うわぁ〜神崎さん、私がチーズケーキ大好きなの覚えててくれたんですか〜約束ですよ」
(やっぱ神速級だ…)
(さすがっていうか…マメっていうか…)
はじめと桜田は神崎の鮮やかな女の子の釣り方にポカーンとしてしまった。
「ほらほら、ぼたんちゃん、つづけていいかしら」
かなえがぼたんをつっついた。
「えへへ…ごめんなさい」
ぼたんが舌を出した。
「…というわけで、紅蜥蜴団と降魔の関係性について、引き続き捜査が行われています。ここまでで何か質問はありますか?」
「は〜い。それじゃ、その紅蜥蜴団ってのの日本支部を巴里みたいに強襲すれば?」
桜田がめんどくさそうに手を上げて質問した。
「…短絡的発想だな…」
「あぁん?じゃお前は何か、このままコイツらが好き放題やってんの放置できんのか?」
再び、桜田がユーリに食ってかかる格好になった。
「…それが特定できれば苦労はないんですけど…構成員は網の目みたいに散らばってるし、住宅密集地で周辺住民を人質に取るような配置になっていることが多いんですって。それに、末端を切っても殆ど効果が無いんです」
「町ごと人質だって!?…なんて奴らだ」
桜田は怒りを抑えきれないようだった。
「…まさに蜥蜴ね」はじめは腕を組んで考え込んだ。
「…というわけで、今のところ判っている情報はこんな所だ。みんなそれぞれ思う所があるだろうが、ここまでの情報を持って来てくれたのは現場の精鋭達の類まれない努力の成果だ。その努力に応えるには、こちらも君達にしかできないことで応えたまえ。四方八方に首をつっこむめば彼らの足手まといになる。情報を把握しつつ、我々は出撃すべき時を待つ。いいね」
「了解しました」はじめが立ち上がって敬礼した。
「では、ここで解散するが…その前に、現時点での部隊編成が整ったのを機に、彼を紹介する。ユーリと熊三はよく知ってる人だ」
「え?おっちゃん、まさか、樫本のおっさんも帰ってきたのか??」
熊三が身を乗り出した。
「入って来たまえ、樫本少佐」
「…あ、あなたは!」
柳田が向いた方向を見ると、はじめは思わず声をあげた。さっきの渋い男性が立っていた。
「よ〜嬢ちゃん、予告通りまた会えたろ」
「おや、もう会ったあとでしたか。少佐もスミに置けないな」
「からかわないでくださいよ中将、さっき司令室の前で偶然会ったんですがね」
柳田と樫本は親しげに語り合った。
「朝日奈中尉、彼が副司令の樫本宗次郎少佐だ。君の手伝いをしてくれる、こき使ってくれたまえ」
「言ったろ?ラクをしろってな嬢ちゃん」
樫本はあぜんとしているはじめに頼もしい笑顔を見せた。
「お久しぶりです少佐」
「おぅユーリ、相変わらず仏頂面だな。それさえ治れば大モテなのによ」
「…しょ、少佐!」ユーリは今日は意外な表情ばかり見せる羽目になった。
「おっさん!なんだよ、帰ってたなら連絡してくれよ〜」
熊三も本当に嬉しそうに話かけた。
「そっちこそ聞いたぞ大食い小僧が!旅費まで食ってんじゃねえよまったく…」
「げっやべ…」
樫本に背中をどつかれて、熊三は目を白黒させた。
「少佐はいままでインドに出張していてな。熊三とユーリ以外は知らなかっただろうが、華撃団のメンバーの選抜に
あたり、世界中を飛びまわっている。今回の事件を受けて、しばらくここにいてくれることになった」
柳田が樫本を改めて紹介したが、
殆どはじめはそれを聞き流してしまいそうな程舞い上がってしまい、
「はい、こちらこそよろしくお願いします!少佐!」と言うのがやっとだった。
(…はじめちゃんって渋専だったんだ…ますます攻略しがいがあるね)
神崎が桜田に耳打ちした。
(はぁ?勝手にやってろよ。けっ女ってどーしてあんなにコロコロ態度変わるんだか)
桜田はどうでもよさげだが不機嫌に返した。
「あれ、どーしたの桜田君、機嫌悪いね。もしかして思いっきりあからさまにヤキ」
友之が思いっきり声を出して突っ込もうとしたのを、桜田は友之のほっぺを両手で引っ張って制した。
「あん?なんだって友之、金沢文庫ってそのまま言わすぞ」
「わ、わひゃったからはなひてよひゃふらふぁくん」(訳:わかったから離してよ桜田君)
「…ちょっとそこ、何を小学生みたいなことしてんの…もう、あんまり頭痛のタネ増やさないでよね」
「ははは、みんな元気そうな連中で何よりだ。これからよろしくな。もっとも、俺はあんまりちょっかいを出さねえ
つもりだがな。桜田、神崎、友之、よろしく頼んだぜ」
樫本は豪快に笑った。
その笑顔にあとの三人もすっかりほだされ、
「こちらこそ、よろしくお願いします少佐」
と、はじめと全く同じことを言うしかなかった。
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